【来賓講演】 河田昌東先生「放射線照射、ゲノム編集による品種改良 何が問題か」

本日の最初は、河田昌東先生による品種改良についての講演です。
分子生物学者である河田先生から、新たな品種改良技術の「イオンビーム照射(放射線照射の一種)」と「ゲノム編集」について、技術の詳細、商品化の状況、法規制の問題、海外動向など、多角的な視点で解説していただきました。

放射線照射による品種改良については、ガンマ線照射とイオンビーム照射の違いについて詳細に遺伝子変異のメカニズムを説明されました。従来技術であるガンマ線照射は自然の突然変異に近いものの、イオンビーム照射はDNA2本鎖を切断しやすいために未知タンパク質が出来てしまう危険性を指摘されました。
また、今話題の放射線育種米コシヒカリ環1号を題材に、イオンビーム照射による品種改良の手順や、どのような遺伝子変異が起きた個体か、どのような問題点があるのか、説明されました。具体的には、マンガンを取り込むタンパク質が壊れているため、マンガン濃度の低い土壌では収穫が大幅に減ってしまうそうです。また、DNAの壊れ方が1塩基欠失であるため、フレームシフトという現象が起こり、未知タンパク質ができてしまっている可能性もあるそうです。
そもそも、このコシヒカリ環1号はカドミウム対策として作られた品種ですが、Pokkaliというインドの在来種のお米がカドミウム低蓄積の特徴を持っており、放射線照射で品種改良しなくとも、解決策はあるとのことです。

ゲノム編集に関しては、遺伝子組換えとほぼ変わらないにもかかわらず、日本では規制が緩く、政策として推進されているために世界でも突出して商品化が進んでいる状況です。遺伝子組換えと多少の違いはあるものの、ゲノム編集にもマーカー遺伝子という外来遺伝子が使われているなど、遺伝子組換え食品と似たような問題があることが指摘されました。また、日本では、遺伝子組換えとは異なるとして安全審査や表示義務が課されておらず、河田先生はこの点を強く危惧され、問題視されていました。
最近流通が始まった「ゲノム編集魚」についても、遺伝子改変の内容から起こりうる問題点、食品としての危険性と環境への影響など解説されました。具体的な懸念点を多く出していただき、講演をご覧になった皆様も、問題点やリスクを十分認識されたことと思います。

講演を通して、「自然の進化」についての研究成果に触れられ、今回紹介したような品種改良技術は「自然の進化」に逆行するものであると指摘されました。自然の進化は今回紹介したような遺伝子破壊によるものではなく、変異の蓄積で新たな遺伝子を獲得するものであることが明らかになりつつあるとのことです。

質疑では、培養肉・コオロギ・RNA農薬・遺伝子組換えの交雑問題が話題となり、これらについても多くの知見を情報共有していただきました。
最後には遺伝子技術の生命倫理の問題にも触れられ、安全性・環境に対する影響・生命倫理については「専門家だけに任せてはいけない。社会が全体としてみんなで考える必要がある」と締めくくられました。

フードテックに問題意識のある方、法規制や海外動向を知りたい方、生命の仕組みに興味のある方など、皆さまにとって学びのある講演だったと思います。新たな品種改良技術の問題点を多方面から明らかにする濃密な講演でした。ありがとうございました。

来賓講演「放射線照射、ゲノム編集による品種改良 何が問題か」のアーカイブ動画は以下リンクをクリックするご覧いただけます。(「午前の部」のボタンを押して、0時間1分40秒ぐらいから) https://stream.homoeopathy.ac/live/live20230603cartr456Ub6SPM/index2.php

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